便利な概念ベクトルとは何か?速度の合成と分解
今日は速度の合成と速度の分解について学んでいきます。
この考え方はベクトルの知識さえあれば簡単です。
まずはベクトルとは何か、スカラーとの違いも含めてお話しします。
ベクトルの考えを用いて速度の合成と分解を行い、最後はちょっとした例題でより理解を深めていこうと思います。
慣れるまでは大変ですが、ベクトルは本当に便利です。
習った当初は「分けていいのかよ」とか「合わせちゃっていいのかよ」とか思ってましたが、とりあえず言われた通りにやったら楽だし解けるしで、もうベクトル無しの世界に戻れなくなってました。
斜方投射や斜面を下る運動で使う考え方なのでこれをマスターするだけでもぐっと幅が広がります。
スカラーとベクトル
速度の合成と分解を学ぶ前に基礎知識であるベクトルについて学びます。
スカラーは大きさのみの情報を持つものいいます。
もともと向きの概念がない時間や質量などはスカラーのグループになります。
ベクトルとは大きさと向きの情報を持つものを指します。
速度や力は大きさと向きの情報を持つのでベクトルのグループです。
しかし、ベクトルは向きを考えなければ(=無視すれば)大きさだけの情報になるのでスカラーとして考えることもできます。
例えば速度$\vec{v}$はベクトルですが、これの絶対値$|\vec{v}|$は速度の大きさのみを表しているので、スカラーとなります。
速度の合成
速度の合成は複数のベクトルを1つにするときに利用します。
一直線上の速度の合成
一直線上の速度の合成は川を進む船を考えるとわかりやすいです。
川に流れがないとき船の速度を$\vec{v_1}$、川の速度を$\vec{v_2}$とすると、川の進行方向に沿って船が進むとき、船の速度は岸辺から見ると、
$$\vec{v}=\vec{v_1}+\vec{v_2}$$
となります。
ここで気を付けてほしいのは船の速度と、岸辺から見た船の速度は異なる点です。
速度の合成がわからない人はおそらくここで躓いていると思います。
船に乗っている人にとって船の速度はあくまで船の速度計が示した値($=\vec{v_2}$)です。
一方岸辺から見た船の速度は川の速度がプラスされる分、より速度は速くなります。
基本的には岸辺から見た人目線の静止している状態で物事を考える(=物理学では実験系といいます。)ので、合成するときはどこの目線で物事を考えているかも意識しておきましょう。
一直線上で運動している場合、どちらかの向きを正として考えることが多いです。
川の進行方向を正としたとき船も同じ方向に進むなら、岸辺から見た船の速度は、
$$v=v_1+v_2$$
船が川の進行方向と逆向きならば、
$$v=-v_1+v_2$$
となります。
向かい風の時に全然進まないのは、風に押されて速度がでないというのはこの式から明らかですね。
異なる方向の速度の合成
先ほどは一直線上の合成を考えましたが、これは異なる向きでも同じことが言えます。
川を横断するように泳ぐ場合、川の速度と自分が泳ぎたい方向に泳ぐ速度のベクトルの和(=合成)が泳ぐ人の速度です。
泳ぎたい方向泳いでも川の速度で流されるため斜めに進みます。
速度の分解
速度の合成のあとは速度の分解です。
やっていること自体は速度の合成の逆です。
斜方投射や斜面上を運動する物体でよく用いる方法です。
平面上の運動であれば2方向をどう選択するかで何通りもの方法が考えられますが、$x$軸、$y$軸方向への分解や斜面方向、斜面に垂直方向に分解することが多いです。
$x$軸、$y$軸方向への分解
これから学ぶ水平投射や斜方投射では$x$軸、$y$軸に分解することが多いです。
$x$軸、$y$軸に分解したとき速度の成分をそれぞれ$v_x$、$v_y$と表記することが多いです。
では、$x$軸からの角度が$θ$の方向に飛んでいる物体の速度を$\vec{v}$としたとき、速度$\vec{v_x}$、$\vec{v_y}$の成分はどうなるでしょうか。
三角関数を用いれば
$$v_x=vcos(θ)$$
$$v_y=vsin(θ)$$
となります。
直行する方向へ分解しているので、三平方の定理を用いて合成すれば
$$v^2=v_x^2+v_y^2=v^2sin^2(θ)+v^2cos^2(θ)=v^2(sin^2(θ)+cos^2(θ))=v^2$$
となります。
斜面方向と斜面垂直方向への分解
$x$軸、$y$軸方向への分解以外に、斜面方向と斜面に垂直方向に分解することもあります。
斜面方向と斜面に垂直方向に分解するとき、それぞれ$v_\parallel$、$v_\perp$と表現することが多いです。
主に斜面を転がる物体でこの分解を利用します。
今まで速度について合成と分解を説明しましたが、この分解は加速度についても同じように分解することができます。
ここでは例題を用いて理解を深めてみましょう。
角度$θ$の斜面を転がる物体を考えます。
$t=0$のときの初速度は$v_0$とします。
重力加速度を$g(>0)$として斜面方向の重力加速度の成分$g_\parallel$と、時刻$t_1$の時の速度$v$を求めてみます。
まず、斜面方向の重力加速度の成分$g_\parallel$は、
$$g_\parallel=gsin(θ)$$
斜面方向の重力加速度が出たので時刻$t_1$の時の速度は$v$は、等加速度運動の公式1つ目を使って、
$$v=v_0+at=v_0+g_\parallel t_1=v_0+gsin(θ)t_1$$
これが時刻$t_1$の時の速度です。
ではさらに$t=0$から$t=t_1$で進んだ距離$x$を求めてみると、等加速度運動の公式2つ目を使って、
$$x=v_0t+\frac{1}{2}at^2$$
$$x=v_0t_1+\frac{1}{2}g_\parallel t_1^2$$
$$x=v_0t_1+\frac{1}{2}gsin(θ)t_1^2$$
これが時刻$t_1$のときまでに進む距離です。
では少し見方を変えてみます。
初期条件の初速度や斜面の角度は同じにして、物体が高さ方向に$h$だけ低くなるまでの時刻$t_2$を求めてみましょう。
先ほどの式を用いると、時刻$t_2$で進む距離は
$$x=v_0t_2+\frac{1}{2}gsin(θ)t_2^2$$
この距離$x$は斜面を進んだ距離なので三角関数を用いて、次が成り立ちます。
$$h=xsin(θ)$$
$$h=v_0t_2sin(θ)+\frac{1}{2}gsin^2(θ)t_2^2$$
ここまでこれば後は数学と一緒です。
この等式を$t_2$について解けばよいので、2次式の解の公式から
$$t_2=\frac{-v_0sin(θ)\pm\sqrt{(v_0sin(θ))^2-4×\frac{1}{2}gsin^2(θ)×(-h)}}{2×\frac{1}{2}gsin^2(θ)}$$
$$t_2=\frac{-v_0sin(θ)\pm\sqrt{v_0^2sin^2(θ)+2ghsin^2(θ)}}{gsin^2(θ)}$$
$$t_2=\frac{-v_0sin(θ)\pm sin(θ)\sqrt{v_0^2+2gh}}{gsin^2(θ)}$$
$$t_2=\frac{-v_0\pm\sqrt{v_0^2+2gh}}{gsin(θ)}$$
これで答えが出ました。
めでたしめでたし、ではありません。
この答えでは×、良くて部分点の△で終わってしまいます。
問題の条件から$0<t_2$は明らかです。
ルートの中身はすべて正の値なので$t_2$が正の値になるのは、
$$t_2=\frac{-v_0+\sqrt{v_0^2+2gh}}{gsin(θ)}$$
これで問題が解けました。
まとめ
速度の合成と分解は理解できましたか。
簡単にまとめましたが、合成は単なるベクトルの和、分解はその逆になります。
分解は何通りもの分け方があるので、どう分けると便利で都合がよいかはいくつか問題を解いてコツをつかむしかありません。
とはいっても基本的には$x$成分、$y$成分に分けることが多いですし、ほぼパターンは決まっています。
最後の例題では少し難しめの問題だったかもしれません。
解けたと思っても最後に引っ掛けがあるかもしれないので最後まで気を緩めないように注意しましょう。
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